「Still Life in Life」と題した本展では、人物像を排し、人の痕跡に焦点を当てた新たな展開を試みます。複雑に重なり合う色彩とレイヤーは、身近な日常と地球規模のダイナミズムを接続し、絵画の持つ拡張性を提示します。ぜひ会場でご覧ください。
《ノートパソコンのある散らかった机》
2026年
油彩、キャンバス
53.2×46.0 cm
《ノートパソコンのある散らかった机》
2026年
油彩、キャンバス
53.2×46.0 cm
《食器ラック》
2026年
油彩、キャンバス
《食器ラック》
2026年
油彩、キャンバス
安藤裕美/Ando Yumi
1994年東京生まれ。画家・アーティストコレクティブ、パープルームの主要メンバー。
主に「つくる人」の現場や生活を漫画やアニメーション、絵画、銅版画などで描き、記録している。『美術手帖』にて漫画「前衛の灯火」を連載。



Still life in life
わたしは絵画を通して日々の出来事、とりわけ中心メンバーとして活動しているパープルームのようすや工房での作業などつくることにまつわる場面を描いてきた。
それは絵画を一種のドキュメンテーションとして考えているからだ。
しかし実際の場面を描いているにも関わらず色や形、構図すべてが現実とは異なっている。
過ぎ去った日々の情景はスマホの画像や記憶に残っているだろう。
それらと比べて絵画作品はたんなる記録にとどまらずそれ自体が現在進行形の現実でもある。
今回の個展ではこれまで作中に頻繁に登場した人物像を排し、人がいた痕跡を描くことに注力した。
例えば《ノートパソコンのある散らかった机》は通常の静物画ではあまり見られないような見下ろしの構図で、わたしが普段やっている動画編集のようすが描かれている。
この作品で注目して欲しいのはキャンバスの矩形の中にノートパソコンのやや角度のついた液晶画面が描かれていることだ。これは一種の画中画でもあるが、わたしの絵画制作における編集的な側面に自己言及しているのである。
話は変わるがわたしの絵画は絨毯の模様や入り組んだ地形のように複雑な色やレイヤーが入り乱れる。
わたしはそこに地質学用語であるスーパープルームを重ねて考えている。スーパープルームとは地下約2900kmの深さから上がってくる高熱の超巨大なマントル上昇流である。
色彩をキャンバスから飛び出してくるエネルギーのように捉えているのだ。
ちなみにこれはわたしの父が地震の研究をしていて、パープルームの由来はスーパープルームから来ていると誤解していたことに基づいている。
だけど、それもあながち間違っていないのかもしれない。
わたしにとって絵画はごく身近な対象と地球規模の地殻変動を同時に感じる装置なのである。
安藤裕美