松田ハルは、三次元コンピュータグラフィックス(3DCG)や仮想現実(VR)といった先端技術と、シルクスクリーン印刷やペインティング、彫刻などの物質的なメディアを組み合わせながら作品を制作しているアーティストです。このような手法を通じて松田は、物質と非物質、現実とフィクション、オリジナルと複製など二項対立的なテーマの境界に揺さぶりをかけます。近年では映像作品制作に取り組むなど、その表現を拡張し続けています。
本展では、人類が歴史的にフィクションを投影してきた「宇宙」をテーマに、ペインティング、彫刻、映像作品の新作をインスタレーション形式で展示いたします。

《Astronaut》
2024年
シルクスクリーン、アクリル絵具、油彩、キャンバス
120×162 cm

《Moon Survivor》
2025年
シングルチャンネルビデオ、4K

《Heart Sculpture》
2025年
シルクスクリーン、アクリル絵具、キャンバス
32×23.5 cm

《Moon Landing》
2025年
シルクスクリーン、アクリル絵具、キャンバス
130.3×97 cm
松田ハル/Matsuda Hal
1998年生まれ。筑波大学芸術専門学群版画専攻卒業後、京都芸術大学大学院グローバル・ゼミ修了。版画とVRを組み合わせた、「VR版画」を制作している。現実と仮想の空間を鑑賞者が体験することで、新しい鑑賞体験を展開している。
ふと宇宙関連のニュースを見ていると、アルテミス計画について目に止まった。
ドナルド・トランプ大統領が2017年12月に月の探査計画を承認し、既に2022年のアルテミス1号におけるミッションは終了しているらしい。2025年の計画では有人での月周辺のテスト飛行のミッション、2026年以降では有人月面着陸など、最終的には月面基地を設置する予定だそうだ。自分にとっての月面のイメージとは、1969年のアポロ11号から始まる、月面での宇宙飛行士たちの写真だ。当時も真実だとかフェイクだとかで様々な憶測や陰謀論などが囁かれていたらしい。自分にとっての宇宙、人々にとっての宇宙という情報はどれだけの身近さがあるのだろうか。リアリティーを考えた時、それはまったくわからないし、少なくとも自分にはどこまでが本当でどこまでが嘘なのかまるでわからない。
自分達の身近に降りてきているテクノロジーを考えた時に、スマートフォンを始め、インターネット、AI、様々な技術が今の私たちには扱える。特に最近ではAIがどの分野にも発達しているように見える。文章や画像、音楽、映像生成等の人間の文化的な部分をより多く介入し、様々な議論をよく見る。実際今回はある種のパートナーとして一緒に制作を手伝ってもらった。AIの不得意な部分を出さないように、自分が指示をするのは少々骨の折れる作業もあったが、今後良いパートナーになれるのかもしれないと思った。
今後の未来を考えた際、SFの世界ではAIと共に歩んでいる人類を漫画や映画でよく見る。だからきっと宇宙に行ける日が当たり前のように来るのかもしれない。自分が生きている間とかは関係なく、その選択肢が当たり前に生まれる日が来るのかもしれない。
しかし、心のどこかで本当にそうか?と思う部分は拭いきれなかった。新しい技術が生まれた際の、未来への想像力は計り知れないものがあるが、実際にはそんなロマン的展開はないし、さらけ出された人間の欲望が溢れ、実際のリアルはそういった未来を形成する。
どこまでも果てしないその欲望はきっと月にも基地を建て、ありえないと思ったりするのかもしれない。それはきっと大多数の人々の意識の外で行われる。そうした受動的な態度のまま、果てしない嘘で完璧なリアリティーを創造する。それが出来たらきっと、また1つの選択肢が増えるのかもしれない。
松田ハル