名を持たない独自のキャラクター「いきもの」を通し、言葉には掬えない感情の揺らぎや気配を描き出すコバヤシ麻衣子。本展では、静かに心へと寄り添う「境界の存在」たちの新作を中心にご紹介いたします。
《最後に残るもの》
2023年
アクリル絵具、オイルパステル、色鉛筆、和紙、キャンバス
160×160 cm
《今日の選択》
2024年
アクリル絵具、色鉛筆、和紙、キャンバス
45.5×60.5 cm
《青く疼く》
2018年
アクリル絵具、キャンバス
80×60 cm
《ふわり、ひとり、ひとり。》
2025年
アクリル絵具、色鉛筆、和紙、キャンバス
41×27.3 cm
コバヤシ麻衣子/Kobayashi Maiko
1977年神奈川県横浜市生まれ。現代美術家。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科空間演出デザイン専攻卒業後、2008年に英国国立ノーザンブリア大学芸術社会科学部アートプラクティスコース修士課程を修了。身近な心理や存在の揺らぎを主題とし、独自の「いきもの」を描く。現在は東京を拠点に、アジア圏、アメリカ、フランス等、国内外で個展・グループ展多数参加。2024年に作品集『FORMS OF BEING―存在のかたち』(ARTDYNE)が出版された。



私が描いている「いきもの」たちは、子どもでも大人でもなく、人間でも動物でもない。何か特定の感情に支配されているわけでもない。私の内側に生まれる名づけえない感情や思考のあいだを行き来し、この社会で生きているとたびたび出くわす、些細で微妙なズレに反応しながら、「いきもの」たちは静かにそこに佇んでいる。彼らは境界的存在、“リミナル・クリーチャー(Liminal Creature)”なのだ。
「ふわり」と漂いながら生きているように思う。その軽やかな言葉の響きとは裏腹に、そこにはいつも少しの不安や違和感がある。私はそれを飛び越えようと、小さな勇気を持つ。「ひとり」というあり方は、私たちそれぞれの存在の単位であろう。自分自身との深い対話がもたらすものを見つめる。そして「もうひとりのひとり」は、内なる他者である。同じようにこの世界に漂う他の誰かとの、静かな共鳴を可能にする。
コバヤシ麻衣子